新しい命の誕生は喜びと同時に、大きな環境の変化をもたらします。出産後のホルモンバランスの変動、睡眠不足、育児の責任感など、様々な要因が重なり、心と体に大きな負担がかかることがあります。

日本産婦人科医会の調査によると、出産後のお母さんの10～15%が産後うつを経験するとされています。また、子育て中の親の多くが、程度の差はあれ不安や自信のなさ、孤独感などを感じることがあります。

『優しい詩』では、あなたの産後の気持ちの変化や子育ての悩みに寄り添い、安心できる場所で自分のペースで気持ちを整理するお手伝いをします。「こんなことで相談していいのかな」と躊躇される方も多いですが、どんな小さな悩みでも、あなたにとっては大きな問題です。一人で抱え込まず、まずはお話ししてみませんか？

産後の気分の落ち込みについて

産後の心の変化とは

出産後は、女性の体内で急激なホルモン変化が起こります。厚生労働省によると、出産後の心の状態は大きく3つに分けられます：

1. マタニティブルー：
   出産後数日から2週間程度続く一時的な気分の落ち込み。涙もろくなったり、不安になったりしますが、多くの場合は自然に回復します。
2. 産後うつ：
   出産後1ヶ月前後から発症することが多く、2週間以上続く気分の落ち込みや興味・喜びの喪失などがみられます。眠れない、食欲がない、自責感が強いなどの症状があります。
3. 産後精神病：
   出産後数日から2週間程度で発症する重篤な状態。現実との接触が失われ、幻覚や妄想が現れることがあります。すぐに専門的な医療的介入が必要です。

父親も経験する産後うつ

産後うつは母親だけの問題ではありません。近年の研究では、父親も産後うつを経験することが明らかになっています。国際的な調査によると、新米パパの約8～10%が産後うつのリスクがあるとされています。日本児童精神医学会の報告によれば、日本でも同様の傾向が見られることが指摘されています。
父親の産後うつの特徴としては以下のようなものがあります：

新しい役割への適応の難しさ
仕事と育児の両立によるストレス
パートナーへの支援と自分自身のケアのバランスの取り方
経済的責任感の増大
睡眠不足や生活リズムの変化
自分の時間や自由の喪失感
子育てスキルへの不安や自信のなさ

2023年の調査では、父親の産後うつは母親のメンタルヘルスや子どもの発達にも影響を与える可能性があることが示されており、家族全体のサポートの重要性が強調されています。
『優しい詩』では、母親だけでなく父親の産後メンタルヘルスケアも提供しています。性別に関わらず、子育てに関わるすべての方の心の健康をサポートすることが、家族全体の幸せにつながると考えています。

産後の気分の落ち込みのサイン

以下のような気持ちや状態が続く場合、専門家への相談を検討することをお勧めします：

• 出産後、理由もなく涙が出たり気分が落ち込んだりする
• 赤ちゃんのお世話で疲れ果て、自分の時間がまったく取れない
• 子育てに自信が持てず、何をしても上手くいかないと感じる
• 周囲から「育児は楽しいはず」と言われるが、実際は辛いと感じる
• パートナーや家族のサポートを十分に得られず、孤立感がある
• イライラしやすく、子どもに対して自分の理想通りに接せられない
• 子どもの成長や発達が気になり、常に比較してしまう
• 育児書や周りのママとの違いに不安や焦りを感じる
• 産前と産後で自分のアイデンティティが変わり、戸惑いがある

父親に特徴的なサインとしては、以下のようなものもあります：

• イライラや怒りの感情が増える
• アルコールや仕事への逃避
• 身体症状（頭痛、腰痛、消化器症状など）の増加
• 趣味や社交活動からの引きこもり
• 家族との関わりを避ける傾向

日本周産期メンタルヘルス学会の研究によれば、産後うつは適切なケアが行われないと長期化し、母子関係にも影響を及ぼす可能性があります。しかし、早期発見と適切なサポートにより、多くの場合は回復が見込めます。

子育ての悩みについて

子育てで感じる一般的な悩み

国立成育医療研究センターの調査によると、子育て中の親の多くが以下のような悩みを抱えているとされています：

• 子どもの発達や成長に関する不安
• しつけや教育の方法についての迷い
• 子どもの気質や行動への対処法
• 夫婦間での育児方針の違い
• 仕事と育児の両立
• 周囲からの期待や評価へのプレッシャー
• 自分の時間がない、自己肯定感の低下
• 子育ての孤独感

現代の子育て環境の特徴

日本小児保健協会が発表した「子育て環境に関する調査」によると、現代の子育ては以下のような特徴があります：

1. 核家族化と地域コミュニティの希薄化：
   祖父母や親戚からの直接的な支援や知恵の継承が少なくなり、育児の孤立化が進んでいます。
2. 情報過多による混乱：
   インターネットやSNSを通じて膨大な育児情報に触れることができますが、逆に情報の取捨選択が難しく、不安を増幅させることがあります。
3. 完璧な親像へのプレッシャー：
   SNSなどで見る「理想的な親子像」と現実のギャップに苦しむ親が増えています。
4. 働き方と育児の両立の難しさ：
   仕事と育児の両立に悩む親が多く、特に女性は「ワークライフバランス」の実現に苦心しています。

『優しい詩』でのサポート内容

産後の気分の落ち込みへのアプローチ

1. 安全で受容的な環境の提供：
   まずは安心して気持ちを話せる場所と関係性を大切にします。あなたの感情を否定することなく、そのまま受け止めます。
2. 心理教育：
   産後の心身の変化について正しい知識を提供し、自分の状態を理解することをサポートします。「異常なことが起きているのではない」という安心感を持っていただけるよう努めます。
3. 認知行動療法的アプローチ：
   「完璧な母親でなければならない」「いつも子どものために犠牲になるべき」といった考え方のパターンを見直し、より柔軟な考え方を一緒に探っていきます。
4. セルフケアのサポート：
   睡眠、食事、休息など基本的な自己ケアの大切さを再確認し、具体的な工夫を一緒に考えます。「自分を大切にすることは、子どもを大切にすることにつながる」という視点をお伝えします。
5. 必要に応じた医療連携：
   状態に応じて、産婦人科医や精神科医などとの連携を提案することもあります。薬物療法が必要な場合もあることをご理解ください。

子育ての悩みへのアプローチ

1. 親自身の成長と変化をサポート：
   「完璧な親はいない」という前提に立ち、試行錯誤しながら成長していく親自身の過程を大切にします。
2. 子どもの理解と対応法の探索：
   お子さんの気質や発達段階に合わせた関わり方について、一緒に考えていきます。子どもの行動の意味や背景を理解することで、より適切な対応が見えてくることがあります。
3. コミュニケーションスキルの向上：
   子どもとの効果的なコミュニケーション方法や、パートナーとの育児に関する話し合いの進め方などをサポートします。
4. リソースの活用と社会的つながり：
   地域の子育て支援サービスや、同じ状況の親とのつながりなど、外部資源の活用を提案することもあります。
5. ストレングス（強み）に焦点を当てたアプローチ：
   問題点だけでなく、あなたとお子さんの「できていること」「強み」に光を当て、それを拡げていくサポートをします。

実際のケース（事例紹介）

※以下の事例は複数の相談事例をもとに再構成したものです。個人が特定されないよう、年齢・性別・状況などに変更を加えていますのでご了承ください。

Dさん（32歳・女性）の場合

第一子出産後6ヶ月のDさんは、「赤ちゃんの泣き声に過敏に反応してしまう」「子どもを上手に育てられていないのではないか」という不安を抱えて来談されました。

出産前は仕事でも評価され、何事も完璧にこなすタイプだったDさん。しかし育児では思い通りにならないことが多く、自分の無力感に苦しんでいました。特に夜泣きが続くと「何をしても泣き止まない」と自分を責め、時には赤ちゃんに対して怒りの感情が湧くことに強い罪悪感を感じていました。

カウンセリングでは、まずDさんの気持ちを十分に聴き、「そのような感情が湧くのは異常なことではない」と伝えました。また、「良い母親」についての思い込みを見直し、より現実的で柔軟な考え方ができるよう支援しました。

さらに、具体的な対処法として、①赤ちゃんが安全な状態であれば一度その場を離れて深呼吸をする、②パートナーや家族に短時間でも育児を代わってもらう時間を作る、③「完璧」を求めず「今できること」に焦点を当てる、などの方法を一緒に考えました。

3ヶ月ほど継続的にカウンセリングを受けるなかで、Dさんは「子育ては試行錯誤の連続で、正解はひとつではない」と受け止められるようになりました。また、自分自身を責めるのではなく、「今日もできることをした」と自分を認める視点も少しずつ身についていきました。

Eさん(35歳・男性)の場合

第一子が生まれて4ヶ月のEさんは、「子育てに参加したいのに上手くできない」「妻を支えられていない」という焦りと自己否定感から来談されました。
IT企業で管理職として活躍していたEさんは、仕事では常に結果を出してきた人でした。しかし、赤ちゃんが自分の抱っこでは泣き止まず、ミルクもうまく飲ませられないことが続き、次第に育児に対する自信を失っていきました。また、妻の疲れた様子を見るたびに「もっと役に立たなければ」というプレッシャーを感じる一方で、長時間労働の仕事との両立にも悩んでいました。
カウンセリングでは、まずEさんの育児への意欲と努力を認め、「赤ちゃんとの関係は時間をかけて育むもの」であることを伝えました。また、「完璧な父親」像にとらわれず、自分なりの関わり方を見つけることの大切さを話し合いました。
具体的には、①短時間でも質の高い関わりを持つこと、②自分が得意なことから育児参加を始めること、③パートナーとオープンにコミュニケーションを取ること、④職場での働き方の見直しを検討することなどをサポートしました。
また、同じような状況の父親たちのオンラインコミュニティの情報も提供し、孤立感の軽減を図りました。
2ヶ月ほどのカウンセリングを通じて、Eさんは「育児は仕事とは異なるプロセス」であることを受け入れ、小さな成功体験を積み重ねることで自信を取り戻していきました。パートナーとの関係も改善し、二人で協力して子育てする方向に変化していきました。

カウンセリングで期待される効果

1. 感情の整理と理解：
   混乱した気持ちを言葉にすることで、自分の感情を理解し、整理することができます。
2. 孤独感の軽減：
   誰にも言えなかった気持ちを安心して話せる場があることで、「一人ではない」という安心感が生まれます。
3. 自己理解と受容の促進：
   「こうあるべき」という理想像と現実のギャップに苦しむのではなく、今のありのままの自分を受け入れる力が育まれます。
4. 具体的な対処法の習得：
   日常生活や育児の中で使える具体的なストレス対処法や考え方のヒントを得ることができます。
5. 子育ての視点の変化：
   「問題解決」だけでなく、親子の関係性や成長のプロセスを大切にする視点が広がります。

国立精神・神経医療研究センターの研究によると、産後うつや育児不安に対する心理的サポートは、早期に適切に行われることで、母親の精神的健康の回復だけでなく、母子関係の質にもポジティブな影響を与えることが示されています。

『優しい詩』のカウンセリングで大切にしていること

1. 安心・安全な環境：
   あなたの気持ちをそのまま受け止め、否定やアドバイスの押し付けをしません。
2. あなたのペースを尊重：
   「こうすべき」という価値観を押し付けず、あなた自身の価値観や選択を大切にします。
3. 専門的視点からのサポート：
   心理と看護の両方の専門知識をもとに、心と体の両面からサポートします。
4. 他機関との連携：
   必要に応じて、医療機関や地域の子育て支援サービスなどと連携します。
5. エビデンスに基づいた子育て支援：
   オーストラリアの 前向き子育て支援プログラム Triple P（ポジティブ・ペアレンティング・プログラム）レベル4認定プロバイダーとして、世界的に効果が実証されている子育て支援プログラムを提供しています。具体的な子育てスキルの習得やお子さんの行動に関する悩みへの対応をサポートします。
6. 個別性の尊重：
   母親・父親それぞれの立場や状況に合わせた個別的なアプローチを大切にします。

最後に

育児は喜びと同時に、大きな責任と不安を伴うものです。「完璧を目指すのではなく、『ほどよい親』であることを許容することが、親子の健全な関係につながる」と言われています。

あなたの気持ちや悩みを話すことは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自分と子どもを大切にするための大切な一歩です。

『優しい詩』では、あなたの産後の気持ちの変化や子育ての悩みに寄り添い、「ありのままのあなた」を大切にしながら、少しずつ前に進む道のりをサポートします。まずは安心してお話しください。あなたらしい子育ての形を一緒に探していきましょう。

【子育てのお悩み・産後の気分の落ち込みと関連のある「うつ病」については、こちらのページをご覧ください。】

【子育てのお悩み・産後の気分の落ち込みと関連のある「夫婦関係・パートナーシップのお悩み」については、こちらのページをご覧ください。】

参考文献・出典

1．松本俊彦 (2023)『子育てと親の心の健康』岩崎学術出版社

2．日本産婦人科医会 (2023)「産後うつ病の現状と対策」『日本産婦人科医会報』75巻3号, pp.12-18.

3．厚生労働省 (2024)「健やか親子21（第2次）産後メンタルヘルスについて」『e-ヘルスネット』https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/mother/m-04-003.html

4．日本周産期メンタルヘルス学会 (2023)「周産期メンタルヘルスケアの手引き 2023年版」日本周産期メンタルヘルス学会発行

5．国立成育医療研究センター (2024)「子育て世代の親のメンタルヘルスに関する調査」『成育医療ジャーナル』18巻, pp.45-52.

6．日本小児保健協会 (2023)「子育て環境に関する実態調査報告書」日本小児保健協会